CGが高いのはなぜか?
どうも、TV-CG.comを運営しているデキサの奥山です。
多くのテレビ番組制作者が「CGは高い」と言います。私たちの会社も、請求書や見積書を送った際に「なぜこんなに高いんだ」と聞かれ、納得していただくために四苦八苦した経験は一度や二度ではありません。たぶん多くのCG制作会社が似たような経験をしているはずです。
しかし本当にCGの制作費は高いのでしょうか?私たちCGを制作する立場からすると、多くの人員が動き、それ相応の時間がかかるCGは、決して儲かる仕事ではありません。そうでなければ、CG制作会社はもっと儲かっているはずですし、もっとCGクリエイターも良い暮らしをしているはずです。でも、実際はそうではない。なぜか?理由は簡単で、「高い」と言われながらも実際は労力ばかりかかり、利益が薄い仕事だからです。ではどのくらいの労力がかかっているのでしょうか?
CGは多大な労力の集大成
CG制作会社といっても、よほど大きな会社でない限り、数人規模の少数精鋭部隊です。ですから例えば二時間スペシャルなど大きな番組企画のCGを制作する場合は一般的に二社から三社程度のCG制作会社が仕事を割り振って制作しています。
こうした数社のジョイントワークの場合、まず局や番組制作会社から直接受注した会社が「幹事会社」のような役割を果たします。つまりクライアントへの窓口機能も含め、予算管理やスケジュール管理、さらに作風などがカットごとにばらけないように、全体をコントロールするのです。数社で割り振るため、仕様を決めたり、必要ならコンテをおこしたりします。先にも触れましたが、つまるところ幹事会社がCGのプロデューサーとディレクターを担当するということです。
そしてこの幹事会社のプロデューサーやディレクターの指示を受けて、モデラーというスタッフが実際のクリエイティブワークに入ります。1カットにつき背景のモデリングだけで数人、主体となる被写体のモデリングだけでも数人で分担することがあり、これを数カット分並行して作業するわけですから、数えきれないほど多くの人員が稼動しているのです。その人数は下手をすると数十人になる場合もあります。ですから一社のスタッフだけでは到底追いつかないため、アライアンス関係にある複数社のスタッフが共同で対応することがほとんどです。
よく誤解をされているお客様がおいでですが、私たちの仕事というのはスイッチをポンと押せば自動的に何やら神様がかった人知を超えたオートマトンが勝手に思った通りの映像を作ってくれるわけではありません。まず粘度細工のようなモデリングという作業を行い形状を作り、そこにテクスチャを貼り付けて質感を設定し、映像を撮影するのと同じようにカメラ設定を行い、そのカメラを通じてレイヤーに分けてレンダリングを行い、それらをAfterEffectsなどで統合して完成品にします。
一回でこれらの仕事が終わることはほとんどありません。大抵の場合は途中経過で気にくわない事が出てきて、何度も何度も修正を加えて納得いく形にします。まさに延々と時間をかけて粘り強く繰り返す。そういう性質の仕事です。これだけの作業をしながら作りこむのですから、そう安価に済むはずがありません。
CGは基本的に人件費が高い
人件費が高いこともCGの制作費が高くなる要因です。特にテレビ用のCGの場合、テレビ局の求める水準を間違いなく毎回安定してクリアできるCGクリエイターが少ないからです。
一般的には多くのCGのクリエイターというのは専門学校のCG学科などを出ているのですが、実のところ映像制作者としての経験があるわけではなく、どちらかというと「モデリング作業」のためのノウハウを学ぶことが優先され、かつ、デザイナーとしての資質のほうが優先されている事情があります。
映像を専門に扱っているテレビ関係者ならお分かりかと思いますが、映像のノウハウというのは一朝一夕には体得することはできません。技術的要素と演出的要素が有機的にからみあい、学校で学んだ程度ではまず理解することは不可能です。例え映像演出論の本をたくさん読んで理論として頭で理解したとしても、特にテレビのように時間が無い現場で一瞬の判断を求められるような現場では動物的な直観こそ重要です。
ところが多くのCGクリエイターは、映像制作者としての現場経験がありません。テレビのCGの場合は「部品としてのカット」を作ることが仕事ですから、テレビのセオリーを知らなくても、デザイナーとしてのノウハウだけである程度は通用してしまうのです。
しかし、これではどこまで行っても総合的にテレビ用のCG動画を作成することはできないのです。ある程度映像のノウハウを持っているCGクリエイター、つまり番組ディレクターの立場に立って「何が必要か?」を理解しながらCGを組み上げられるクリエイターでなければテレビのCG制作はできません。
私たちが知る限り、こうした水準に達しているCGクリエイターはあまりおらず、こうした希少なクリエイターは当然そのギャラも高水準です。
もちろん全員がこのレベルに達している必要はありませんが、テレビのように失敗を許せる時間的余裕のない仕事の場合、こうした水準のCGクリエイターをプロジェクト全体の進行役として最低一人、できれば二人欲しいところです。こうした事情もテレビ番組のCG制作が高くなってしまう要因の一つです。
特急制作はさらにコスト増大
さらにスピードを求められる、いわゆる「特急制作」の場合はさらに人員を増やして作業を並列的に進める必要がありますので、そのコストたるや莫大です。
スピードを上げるためにも、通常の営業時間内だけでなく、交代制で24時間作業を続行することも多々あります。こうした場合は社員だけでは人員が不足するため、深夜作業のためにフリーランスのCGクリエイターに参加してもらうことがほとんどです。そうなると人件費は「お給料」の範囲では収まらず、相応の「ギャラ」を発生させることになります。
これらフリーのクリエイターの分も夜食やホテルを押さえる必要がありますし、近隣に住むスタッフの場合でも深夜宅送のためのタクシー代も発生します。
いわゆる特急制作というのは、実はこれほど費用がかかっているのです。
ただでさえお金がかかる特急制作ですが、特にテレビのように「混乱しやすい現場」の場合、CGを制作している途中で内容がコロッとひっくり返ることなど日常茶飯事です。そのたびに作業を一からやりなおしているわけですから、その労力は本来かかる労力の数倍になります。
レギュラーならともかくスポットはより高額に
レギュラーでその番組にお付き合いさせていただけるなら、ある程度普段の仕事の中で利益を出せますので、特急仕事が部分的に入ったとしても私たちは特段の割増料金を頂戴することはありません。
ところが、大抵の場合は特急仕事のみ私たちに依頼がきます。それで「他社の倍かかっているのはどういうことか?」と聞かれましても、「それだけ人件費を一気に、しかも24時間体制で使っているからです」としかお答えすることができません。
もし特急CGで莫大な費用をかけたくないのでしたら、特急でCGを発注しなければならないような事態にならないように、普段から制作さんの中でスケジュール管理をすることです。とはいえ一番良いのは、私たちと普段からレギュラースタッフとしてお付き合いいただくことです。そうすれば、例え特急案件であったとしても、ある程度は「手心を加えた料金」でご相談に応じさせていただきます。
どうでしょうか?一見簡単に見えるテレビ番組のCGですが、これだけの労力がかかって制作されているのですから、ある程度のコストは仕方がないと思っていただければ本当に助かります。